
行政書士試験に合格する数年前、私は「国家資格キャリアコンサルタント」を取得した。
世間では、
「更新費用ばかりかかる資格」 「仕事につながりにくい資格」
などと言われることもあるし、制度そのものに対して厳しい意見を目にすることもある。
一方で、行政書士資格もまた、
「食べていくのが難しい資格」 「誰でも取れる資格」
などと揶揄されることがある。
しかし私にとって、この二つの資格はどちらも欠くことができないと思って挑戦した資格であった。
そして今振り返っても、その考えは変わっていない。
私は50代後半で働きながら行政書士試験に挑戦した。
1年目の本試験では170点。合格まであと10点だった。しかし、この10点が非常に大きな壁だった。
行政書士試験は過去問を繰り返し学習するだけでは届かない部分がある。
知識だけでなく、法的な思考力を使って未知の問題に対応する力も求められる。
合格率は毎年10%前後である。
司法試験や司法書士試験の受験生が、練習を兼ねて行政書士試験を受けていることも少なくない。それらを含めての合格率が10%程度である。
普通のサラリーマンやOL、主婦などが働きながら行政書士試験に挑戦する場合、実質的な合格率はいったい何%くらいなのだろうか。
決して簡単な試験ではない。私は働きながら3年かけてようやく合格した。
では、なぜ私は行政書士とは別にキャリアコンサルタント資格を取得したのだろうか。
一般の方は、
「転職エージェントの資格ですか?」というイメージを持たれるかもしれない。
しかし実際には少し違う。
キャリアコンサルタントは、人生の転機にある人の話を聴き、その人自身が納得できる意思決定ができるよう支援する名称独占の国家資格である。
進学、就職、転職、結婚、出産、介護、病気、退職。
人生にはさまざまなライフイベントがある。
キャリアコンサルタントは、その人の仕事だけでなく人生全体を見つめながら、一緒に考えを整理していく役割を担う。
非常に大雑把に言えば、
「相談する力」を学ぶ資格
と言えるかもしれない。
キャリアコンサルタント養成課程では、多くのキャリア理論を学ぶ。
その中でも私が特に印象に残っているのが、ジョン・D・クランボルツの「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」である。
人生は計画どおりには進まない。
しかし、偶然の出会いや出来事をチャンスとして活かせる人は、結果として人生を大きく変えることがある。
「あの時あの人に出会ったから今の自分がある」
そんな経験は誰にでもあるのではないだろうか。
偶然をただの偶然で終わらせるのではなく、好奇心を持って行動し、柔軟に受け止めることで人生の可能性は広がる。
私はこの考え方に大きな影響を受けた。
私は30年以上勤務した会社で、業績悪化に歯止めがかからず、大規模な雇用調整を伴う組織再編を何度も経験した。
長年、経営企画や社長室という本社スタッフ部門で働いていたこともあり、リストラ計画を作成し遂行する立場と、社員個人として雇用調整の面談を受ける立場の両方を何度も経験してきた。
度重なる事業売却と雇用調整により会社の事業規模は半減した。
銀行から役員が送り込まれ、ついには上場廃止となり、外資系投資ファンドの傘下に入った。
その頃には事業規模は3分の1にまで縮小し、ポストもなくなり、待遇も変わった。
とにかく家族を守るために会社に残ることを選びながらも、
「このままでいいのだろうか」
という思いを抱え続けていた。
そんな時に出会ったのがキャリアコンサルタントという資格だった。
当時は、
「自分と同じように悩む中高年世代の相談相手になれないだろうか」
と考えていた。
そして、その思いは今も変わっていない。
現在、私は行政書士として個人事務所を開業している。
遺言書作成や相続手続きなどの相談はもちろん、さまざまな許認可申請に関する相談を受ける中で感じるのは、
”相談者の悩みは法律や手続きだけでは解決しない”
ということである。
相続の悩みの背景には家族関係があり、遺言の相談の背景には人生観や価値観がある。許認可申請の一つ一つにも、事業の将来や人生がかかっているのだ。
行政書士として法的な支援を行うこと。
そしてキャリアコンサルタントとして「その人らしい意思決定」を支援すること。
私はこの二つの資格を別々のものではなく、互いに補完し合うものとして捉えている。
行政書士試験への挑戦も、キャリアコンサルタント資格の取得も、私にとっては第2の人生を見据えた大きな挑戦だった。
振り返れば、どちらも偶然のように見えて、今につながる大切な出会いだったと思っている。
人生は思いどおりにならないことの方が多い。
それでも、自ら考え、自ら選び、そして一歩踏み出してみる。
あとは心の羅針盤に従って、焦らず、腐らず、淡々と歩みを進める。
その積み重ねが幾多の困難を乗り越え、新たな道を切り拓き、その後の人生を形づくっていくのだと思う。